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■周防大島帰郷編・第5章 ・・・ 宮本常一

周防大島出身の民俗学者、(故)宮本常一氏をご存知だろうか。

宮本常一は昭和を代表する空前の旅人であり、73年の生涯で16万kmもの行程を歩き日本全国にその足跡を印した。
日本の村という村、島という島を歩きつづけた宮本は、旅先で出合った人々の生活を記録するだけでなく、笑顔と全国行脚で培った該博な知識で人々を明るく励まし、彼らに誇りと勇気を与えることを忘れなかった。
民俗学者という枠に囚われない宮本は経世済民の思想の体現者である・・・というのが宮本常一という人の評であるが、氏の著書に触れてなければ周防大島.comはきっと別なモノになっていたと思う。

周防大島について理解を深めようと通っていた町立図書館にて目に付いた氏の書籍。
宮本常一の名前だけは知っているといった程度の認識で手に取ったのが代表作である「忘れられた日本人」であった。
まあ読んでみるかと頁を繰ってみると・・・正直驚いた。
文章力が特別優れているとか、立志伝中の人物が主人公である訳ではないが、周防大島にこれだけの著書を残す人がいたのかと驚嘆を隠せなかった。
「忘れられた日本人」には庶民のダイレクトな心情やリアルな営みが溢れていた。
一庶民の生活が物語になりうることに驚き、また宮本の仔細に渡る洞察力とやさしい眼差しを知り深い感銘を受けた。
なにより縁もゆかりもない人々から、その生い立ちや業といわれるものまでを語らせるインタビュアーとしての手腕には、ある種恐ろしさのようなものさえ感じた。

幸いというか当然というか町立図書館には宮本の全集も揃っており、面白そうなモノから片っ端か読み漁ることで、宮本という人に傾倒していく自分がいた。(読み漁ったといっても10数冊程度であるが)
先に述べた代表作「忘れられた日本人」はいわば氏の著書の中でも特殊な部類、名もなき市井の人々を主人公とした伝記といえる短編集であるが、作品の多くは氏のフィールドワークをエッセーとして綴った報告書といった内容である。
それら多くの作品には当時の文化・経済などが克明に記されているのだが、同時に時代と共に失われていく地方文化、衰退していく地方経済などに警鐘を鳴らしている。
宮本の凄いところはその危機的状況を予測する能力もさることながら、きちんと実例や具体例をもって地域活性化のために必要な手段、手法を提示してくれていることだ。
ここが凡百のノンフィクション作家と宮本との大きな違いである。
また、宮本の言葉は現代においても不思議と古臭さを感じさせないリアリティがある。
いつの時代においても物事の本質というものは変わらないということであろうが、氏の残した数々の著書は地域活性化の指南書として現代でも十二分に活用できるであろう。

宮本常一、そして民俗学というものをアカデミックに探求されている方々は多くいらっしゃるが、個人的には宮本学とは実践学(宮本イズムの踏襲)であるという結論に到った。
大仰なことが出来るとは思わないが、氏の著書を読むほどにモチベーションは否が応にも高まる。
稀代のアジテーターといわれた宮本に、著書を通じて見事に煽動された訳であるが、自分のやるべきことに一本筋を通してもらった心持ちである。

「地域社会に住む人たちが本当の自主性を回復し、自信を持って生きてゆくような社会を作ってもらいたい」

この宮本の言葉を真摯に受け止めることが周防大島の活性化に繋がるとの想いを胸に、サイト運営に携わっていこうと心に留めた。

帰郷一年目、ある夏の日。